広島 CLUB QUATTRO はパルコの10Fにあると聞いて驚いた。ファッションビルにライブハウスが、というのもそうだし、10Fにあるのもそう。客層はそれほど違うような印象は受けなかったけれども。
開場してからしばらくして広島のパルコ 10F を訪れたけれどもまだ入場する列は捌けていなくて、けっきょく4階まで降りることになった。
前に並んでいた大学生くらいの男女がおもしろくて、男のほうが必死で会話を盛り上げようとしているけれども女のほうは淡々としていた (つまらなさそうにしているわけではなさそうだった)。完全に空回りしている様子がみえてなんとなく応援しよう、と思った。自分はケータイを落とした。
ドリンクはカップで渡されたのでその場で飲み干すことになってしまった。ライブハウスのワンコインドリンクという仕組み自体どうかといかんじがするが、それをカップで提供するのは嫌がらせとしか思えない。
思っていたよりもこじんまりとした会場で札幌の PENNY LANE を思い出した。Zepp くらいの広さがあるとライトワークが映えて素晴らしいステージになるだろうが、やっぱりこれくらいの距離感がドキドキする。
後ろのほうにいた、おそらくそれぞれひとりで参加しているらしき女性ふたりがしていた会話がおもしろかった。どこからやってきた、というような話をしていて、一方の女性は近畿のあたりから来たようだった。近畿からやってきた女性が押しの強い喋りをしていて、本当は神戸か大阪が見たかったが神戸には来てくれなかったし大阪は一般発売があっという間に売り切れてしまった、とか、もしよかったら Twitter や Facebook のアカウントを教えてくれ、というようなことを話していた。見知らぬ人に初対面からわずかでそこまでグイグイと迫れるものなのか、と驚き、少し落ち込んでしまいそうですらあった。
最後に彼らのライブを見たのは2010年の VIRGIN KILLER ツアーの札幌で、それ以来、TK from 凛として時雨の渋谷公会堂のライブは訪れたものの、彼ら三人のライブは実に2年半ぶりということになる。
楽しみであったことは間違いないけれども、不安もたくさんあった。いつも使っていた SE が変わったりするのかな、とか、開演を示すブザーのような SE はまだ使うのかな、とか、どのような音だったかな、とか、MC でたくさん喋るようになったのかな、とか。
照明が暗くなって “i dance alone” のリミックス版が流れて、ひとつ不安が去って、ひとつ高揚が訪れる。
リミックス版は低域が豊かなアレンジで、ライブ会場のレンジの広いスピーカーで聞くとびりびりと震えるようである。
幾度目かのループのあと、フロアの照明が完全に落ちてステージ上を足元から照らし上げる青白い照明だけになって、拍手と歓声が起きた。
ブザーの音と共に、携帯電話の着信音などが混ざった SE が流れる。人間の注意を向ける音がとにかくたくさん盛り込まれていて、「これから自分たちを見ろ」という強い意思が感じられて嬉しいし、実際にいつ彼らがステージにやってくるのか凝視してしまう。雨風のようなノイズがけたたましく鳴り響いている。
最後の曲が終わったあと、三人がステージから去っても動くことはできなかった。今回も。青いライトがフロアを照らしている。ステージに誰かが戻る気配もない。それでも、フロアの照明が戻るまでは、まだ現実を知らなくていい気がしていたし、知りたくはなかった。もっと見ていたい、という気持ちと、この気持ちに応えないでほしい、という気持ち。
今回も再びステージに戻ることはなかった。何度も体験したけれども、いつも「今回こそは」と思って期待してしまう。そしてその期待に応えられることはなくて、でも、それでよいのだと思う。