ついに読み終わった……。Amazonの購入履歴によると2018年9月15日に購入したそうなので、1年半越しに読了したことになる。
綾辻行人の『館シリーズ』はおおむね刊行順に読んでいたけれどこの『暗黒館の殺人』はその長さと暗さにどうにも手が進まず、一旦放置して残りを読んでいた。
つまり2020年5月現在において自分の館シリーズ読書はこの『暗黒館の殺人』をもって制覇したということになる。
一巻の半分くらいで止まっていたところ、最近になって椅子を買ったし本を読むかと思い、重い腰を上げた。1週間ちょいで読み終わった。
長いし暗いしミステリというか怪奇・ホラーテイストが強いし、やっぱり長いので再度読むことはおそらくこの先数年はないであろう……。
しかし結果的には2020年において館シリーズ制覇の最後の小説としてこれが立ったのは結果的にはかなり良い采配だったと思う。
館シリーズでもかなり重要な人物にスポットライトが当てられており、ミステリというジャンルよりかはシリーズそのものを好きな人にとってはとても趣のある内容になっているのではないか。
この物語で館シリーズが一旦閉じられるとしても、さほど違和感はない。
一方、評価はかなり難しい。
まず、暗く、長い物語を読み終えたあとにミステリとしての読後感が薄い。ミステリは謎が徐々に積み上げられ、それが解き明かされていくさま、その理屈付けの巧さを楽しむ趣向があると思うけれど、その起承転結の配置のバランスが悪く感じる。
主な事件は2つで、それらもhow-done-itについては早くに明らかになりwhy-done-itに焦点が当てられる。しかし容疑者の多くは精神状態になんらかの特異な点があったりして、合理的に推し量ることがむずかしい。実際オチを知って考えてみても、筋は通っているがそれを事前に予測できたか = 読者に充分情報が出されていたかというと、かなり怪しい。
自分は別に犯人当てゲームに参加することにさほど情熱的ではないが、ミステリとしての犯人を推測するというおもしろさがまず薄かったのが気になる。
その上で、叙述トリックというべき仕掛けが早くから見え隠れするけれど、それと本編の事件との繋がりは薄く、メタ的な仕掛けにしか見えない。
悪く言えば、怪奇小説としての演出に過ぎない。しかしこの仕掛けのできが悪いかというとそうではなく、これはこれで最後にはすっきり解決するし納得はできる。
最後に、これがかなりつらい点で、ミステリ的な意味での謎も、怪奇小説的な意味での謎も、ほとんど序盤から一緒にいる探偵役が知った顔をしているが、ずっとこの探偵役がワトソン役の主人公に対して告げることで物語を引き伸ばしているという構造があからさまなのが萎える。
いわゆる本格・新本格ミステリとして読むと、仕掛けのための仕掛けという印象が強いし、仕掛け同士の繋がりを物語として補強できるほどのものはなく、そこかしらに手段のための手段が散らばっている印象が強い。「枝葉」といっても良い部分を掘り下られることはまったく期待できず、ただ演出されて終わった。
それでも怪奇小説としてもミステリとしても、あるいは館シリーズの作品としてもそれなりにおもしろいとは思う。けれど、このおもしろが四巻に渡って変わらない濃淡で続いているわけじゃない。
一言で言えば無駄が多いと感じるんだろうな。この長大な話を読んで期待するカタルシスには及ばなかった。
もっとコンパクトで濃密なシリーズ作品もあるので、制覇したいという情熱でもって読む以外にあまり読むとっかかりはないと思う。