- 作者: 森山大道,仲本剛
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/08/17
- メディア: 新書
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誕生日に贈っていただいた森山大道の『森山大道 路上スナップのススメ』を読んだ。
文庫本で200ページちょっと。写真のみのページもあるので、文章の分量はもっと少ない。
写真家の森山大道にインタビュアーが話を聞くという体裁の本で、雑誌とかにあるようなインタビューがいくつか収録されているという感じだった。
自分は森山大道の写真をそれと意識して見た機会はそれほど多くなくて、森山大道についていくつか知っていることとすれば、フィルムカメラというか写真を撮る道具自体に感傷をあまり持っていない人で、表現の分野としてはスナップショット (キャンディッドフォト) に主に立っており、とにかく量を撮る、というくらいだった。
実際、読み終わってみるとだいたい印象は間違っていなかった。ただ、写真表現について思っていたよりも感傷的なことを考えている人なんだな、と思った。旅の目的地に向かう途中、通過する街に降り立って撮ってみたい、という気持ちを「嫉妬」と表現していたのがおもしろい。
「写真は現実のコピーでしかない」とか「『絵葉書みたいな写真』は決して馬鹿にした表現ではない」とか、頷けるというか、自分が最近考えていることに近いことが書いてあった。
「写真は現実のコピーでしかない」のだから自分 (森山大道) が撮った写真も諸々が許せば複写自由と謳いたい、というのはなかなか進歩的だな、と感じつつも、これもまた頷けるところであった。
自分が撮った写真が美しかったとして、それは自分の写真の腕がどうだとか撮影機材がどうだ、ということの前にそこに写っているものが美しかったのだ、ということを最近はずっと考えている。
ちょっと前は「あなたの写真が好きだ」と言われてくすぐったいような気持ちだったけれど、今はとても嬉しく思える。だって誰かが言う「あなたの写真は好きだ」という言葉は、本当は写真のその先にある被写体に向けられた気持ちなのだ。自分は、その美しいものたちをより透明に写そうとしているし、それらが「好きだ」と言ってもらえるのなら、過不足なくその美しさを伝えられたのだろうと思う。
あとこの人に興味を持った大きな理由として、フィルムカメラに感傷を持っていないというところがある。
自分はフィルムカメラをほとんど触ったことがなく、デジタルカメラが自分にとっての「カメラ」であるので、デジタルに対してポジティブに、というよりもフィルムに対する拘泥の少ない写真家はかなり進歩的に見えるので、より自分が得るものが多いだろうと考えた。
「銀座とか撮るなんて思っていなかった、食わず嫌いはよくない」みたいなことが書いてあって、最近、イベントごとで人物の写真を撮ってみて意外におもしろかったという体験が呼び起こされて、まさしくそうだよなあ、と思った。写真というものは、自分の体験したこと以上のものにはならないので、よりおもしろそうな方向へ飛び込んでいくことをしなければ、やがて心も鈍ってしまうだろうなあ。
短くさっと読める割に、雑誌とかに載るようなインタビューより濃く、実用書に書いてあることよりもっと観念的なことも書いてあるのでとてもおもしろかった。
自分と同じように比較的若くて、スマートフォンなどのデジタルカメラから写真というものに触れた人に勧めたいと思った。