雨の中、集合団地の敷地を歩いていると極道のような人と出会って拾われた。

彼はズブ濡れのおれを連れて近くの陰気くさいスーパーに入る。雨のせいなのか、スーパーの中はとても暗くてそこにいる客もじっとり暗かった。

入口に入ると正面からチンピラのような男が歩いてきて、ひどく怯えていたおれは目を伏せて横に距離をとった。

やりすごしたとおもったのだけど、おれを連れてきた極道の男はそのチンピラになにかをまくしたてた。どのツラを下げてここにいる、みたいなことを言っていた気がする。

危険な雰囲気を察知して、おれは店内の奥へと逃げた。どうやら銃の撃ち合いになっているようで、銃声が何度も響いた。

とても怖くて、怯えながら菓子売り場のあたりをうろうろしていた。じっとしていると不安に押し潰されそうだったので、ずっと動き回っていた。

そこにひとりの女子高生がいた。雨でずぶ濡れになって薄汚れて挙動不審だったおれに優しく慰めるような声色で言葉をかけてきて、それが余計に不気味で不安でいっそう恐怖に震えた。

彼女はここから逃げよう、と言ってべつの出入口へ案内してくれた。スーパーの敷地の外は地滑りのようなものが起きて崖のようになっていた。そこを二人で降りて、いくつかある団地のうちのひとつへと入り、そこのある部屋に入った。

入ってすぐにそこが誰の部屋なのか、ということを思い出した。驚くことにそこが知り合いの家だったかどうかも考えずに入ったのだった。その家、部屋には初老の夫婦がいて、おれのことを見て驚いていた。どうやら知り合いだったようだ。

頭に25歳くらいの女性の顔が浮かびあがった。ひきつったきれいな笑顔だった。恋人だったのか、姉だったのか、母だったのか、先生だったのか、上司だったのか。とかく彼女の顔が頭に浮かぶと母性に似た包容力で満たされたような気持ちになった。また、彼女がいかに無理をしておれを包容していたのか、彼女がいかにおれと本質的に同等の性質を持っていて、他人を包みこんだり支える余裕がない人だったのか、ということも思い出した。

そうだ、彼女がいなくなって不安で心配で探しに出かけたのだった、ということを思い出して、おれに連れ添ってくれた女子高生を彼女の両親に預けて、再び探しに出ようとした。

女子高生は、おれがなにをしようとしているのか悟り、その上で「わたしの家にきませんか?あたたかいし、広いし、なによりわたしがいます」と言った。

それでも彼女を探さなければいけないから、と、申し出を断わって部屋を出た。

しかし、団地を出て雨の中に出ようとしたところで、ふと、いなくなった彼女を探す意味が、必要性が、わからなくなった。なぜ彼女のために土砂降りの雨の中を泣きながらあてもなく走りまわらなければいけないんだろう、と。おれには、あの女子高生がいる。善意の申し出を拒まれてなお、拒んだおれを哀れむような、心底いたわるような悲しい顔をした聖女のような人だった、あるいは天使かもしれない。それに下心もあった。求めれば体も差し出してくれるのだろう、とおもった。女子高生は、おれが何を求めてもすべて差し出すだろう、という確信があった。そんな人がいるのに、そんな人を拒んでまで探そうとするものは、なんだ? と意味がわからなくなった。いなくなった彼女のことを、おれは慕っていたのだろうか?愛していたのだろうか?求めていたのだろうか? はたしてその意味のわからない人間のために、おれは目の前の幸福を投げ出す必要があるのだろうか? 悩むまでもなく、なかった。なかったから、踵を返して部屋に戻って、正座して俯く女子高生の手を引いて、「君の家に行きたい」と言った。涙の筋を残したまま笑ってくれたような気がした。