映画『恋は光』を見た。ついさっき見た。とても好きな作品で、だからこそ自分の中での期待値が青天井に高くそれを越えることは並大抵のことではないだろうと思い見るつもりはなかった。
しかし同じように原作を好きだという知人のid:Pasta-Kがこういうツイートをしていて考えが変わり、即日見ることにした。
#恋は光 、原作をどう2時間にするんだろと思って訝しんで見たところ、かなり頑張ってまとめてるな〜って思って観てたら、最後の10分の展開が凄すぎて今年のベストに躍り出た!!ただ原作ファンは賛否ありそうな気もするが、原作読んでたからこそ良かったと思えた。あと、サントラがめっちゃ良かった!
— マジカルペンネくん🍝 (@pastak) 2022年7月3日
結論:
- 120分にまとめるため等の事情による改変・アレンジは見受けられるが、全体に原作への敬意が感じられ総合的には受け入れられた
- 作品の新たな側面を提示するという意味でとても理想的なメディアミックスだと感じる
- 個人的な思い入れ・感情の面でも非常に満足した
以下、ネタバレありの詳細な感想。
メディアミックスとしての感想、と結末の感想の2つについて書く。
120分に収めるためにもはやアレンジは避けようがなく、もっといえば何を削ぎ落とすかを迫られていた。
映画では物語の中核から宿木を外すことで3人の関係性描写の熱量を減らし「憧れの恋」か「慈愛の恋」かという構造を導き、物語をシンプルに見せたと思う。 この点、宿木は割を食ったともいえるが、原作を読み返すとやはり描写の点で一歩引いた存在だったという印象はあるのでより強調しただけの結果ともいえそう。
キャスティング・演技もとても良かった。主要登場人物がみな文語調で喋るしかなり外連味が強く、アニメならともかく実写となるとかなり不安のある作品だったが、蓋を開けてみれば嫌味がなくて期待を越えた。
特に西条と北代は重要で、西条はわかりやすくめんどくさそうな人間性をしているが、しかしとっつきにくいと思われてはいけない主人公だし、北代は中盤までの底の見えない飄々とした態度と央に光っていることを指摘されて以降の動揺を隠せない様とがうまく届かなければ魅力は伝わらない。
特に西野七瀬の北代はよかった。とにかくよかった……。安易に涙を見せる演技はさせず劇中で一度も泣かなかったのはよかった。 めんどくさい台詞回しの多い北代だけどキャラクターに言わされている感もなく、原作でも特におしゃれで服装や髪型をころころ変える彼女の装いに耐えられたのもさすがは元アイドル、かもしれない。 *1
さて北代。結末について。原作において西条は東雲と付き合うことにした。宿木と北代は「略奪もよくある話だから、覚悟しておけ」というニュアンスのことを言って一応は東雲とくっつきつつも二人の関係も絶対のものではないと示唆することでいわゆるルート確定には最大限考えを巡らせた結末を迎えた。
映画では、西条は東雲への恋心は変わらないとしつつも「憧れだ」と評し、北代への思いは「何と言ったらいいのかわからない」とし「好きだ」と言い、くっつくことになった。
正直、id:Pasta-Kの感想を見た時からそういう展開はあるのか?と予想しており、結果的にはそうなったのだが、見ていて信じられないような気もした。
とにかく「恋とは何なのか」を突き詰めたラブコメとして非常に意欲的で楽しい作品でした。今生の北代さんに幸がありますように。
原作での北代さんは言ってしまえば、西条が 北代が向ける感情が何なのかを理解しきれなかったから恋愛対象にされなかった のだと思っている。 つまり同じ土俵に立つチャンスを得られぬまま原作の範囲ではその立場を変えることができなかった。
が、映画では西条が同じ土俵に上げ、最終的には「ふと (北代の) 顔が思い浮かんだ」ことで北代との関係を望んだ。
自分はこの結末をご都合主義だとは感じなかった。ひいては原作から「恋」にはいくつかの種類があることが示唆されており人物たちもみなそれについて議論を交わしていた。 ただそれらすべてを知る・理解しているかどうかでしかない、というだけの話だったと思う。
そして映画では西条は北代の気持ちを「恋」だと理解するのに足るものを得て、また自分の気持ちも「恋」だと理解した、ということに初見では違和感を覚えなかった。 つまりそれを説明するに足る情報を自分は得たと感じている。が、それが何だったのかは思い出せない。また見る必要があると思う。
原作を読んでいたときからとにかく北代さんには幸せになってほしいと思っていて、それが最高のかたちで実現してしまい不都合を補完してしまっている可能性はかなり高い。
だから北代さんは今生で救われてほしい会としては満足だけれども『恋は光』ファンとしての評価はいまのところ保留としたい。
ただ、少なくとも当初、自分が懸念していたような実写メディアミックスのよくある失敗は十分に避けられているどころか、作品の新たな解釈を提示するという意味ではとても価値ある映画になったことは間違いないと思うので、原作を愛していた人にはぜひとも勧めたい。
*1:ちなみに東雲はアニメや漫画でも実写でも「わかりやすい」キャラクター性をしていると思うので、あまり不安はなかった。