妹の結婚

この記事は筆者が見た夢を一人称視点で叙述した内容です。事実ではなく、実際の人物等とは一切関係ありません。

妹が結婚した。兄弟は兄の自分と妹の二人だけで、自分は結婚したことがないので我が家が初めて迎える結婚となった。

昨年の顔合わせは台風で飛行機が飛ばず自分だけ参加できなかったので式当日に初めて顔を合わせることになるとか、いろんなことが重なって直前までたいへん気を揉んだ。

自分たちの人柄というものもあるだろうが、それに輪をかけて兄と妹という微妙な関係も手伝って交際相手ができたとか交際相手と今どうであるとか、そういう話をお互いにほとんどしてこなかったので、気持ちとしてはステップをいくつか越えて結婚に至ったという印象があり妹の審美眼がどのようなものかわからないし、加えて結婚の先に見え隠れする子供をもうけるというできごとについて、女性である妹は妊娠・出産に際して肉体面で抱えるリスクは小さくないことを心配する気持ちもあり、めでたいなという気持ち以上に大丈夫かなとおろおろもしていた。

式の前日の夜、妹に呼び出されて結婚相手と母と4人で食事をすることになり、その時に初めて相手を顔をあわせて今までの心配はなんだったのかと思うくらいへなりと安心した。

けっきょく自分だけがいつまでも妹を子供扱いして、人の性根も覗けぬあどけないものだと侮っていたんだなあと反省するような安心するような、とにかく変な心地だった。
それくらい相手の人はいい人だった。


明けて日曜日、式当日、ホテルの中の祭壇で神前式の挙式をあげた。目の前にいる打掛を着た妹を見ながら、こうして儀式に臨むような人間になったんだなあと不思議な気持ちだった。

披露宴で色直しを経てウェディングドレスに着替えた妹は、身内のことながらとても綺麗で、やっとのこと本当に結婚して家庭を持つんだなあと納得できた気がする。

ビデオで相手の人との旅行の写真とかが流れて、自分の知らない生活を経て今に至るんだなあ、とか、書き出してみれば当たり前のことばかりだけれども、しかし実に身にしみて感じていた。

そして同じくらい、母と3人でいろいろ旅行に行ったこととかを思い出して楽しかったけれど、そういう3人の機会はもうほとんどないんだろうなと思うと少し寂しかった。


披露宴を終えて母とホテルに戻って実にいろいろなことを話した。妹のことも、妹以外のことも、お互いのことも、お互い以外のことも。

母と次は (結婚するのは) 自分の番かなというような話になり、自分は、しかしうまくやっていく見立ても自信もないしよくわからない、という風な返事をしたら、人間が何をするときにも初めてなのだから臆病になりすぎずとにかくやってみたらいい、というようなことを言われてはっとした。
普段自分が考えていることと同じだし、なぜそういった生活のことについてだけ過剰に防衛的になるのかということについて、合理的な理由も実のところあんまりないなということに気付かされた。
(そもそも特定の誰かが今いないので、そういう意味では現実味がないのだけれど)

いろいろ話すうち、自分の中にある好奇心だとかはこの人から強く受け継いだものだろうなあと思った。

自分はインターネットを通じていろいろなものにアクセスできて、表面的にはいろいろなものごとを見たり知ることができる。
だから年が同じころの母と比べたら未知の量は少ないかもしれない。

好奇心を遮るものはたとえば恐怖心で、恐怖心はたとえば未知のものに対して生まれる。
未知の数でいえば、母より自分のほうが好奇心を遮られることが少ないといえる。

そういうアドバンテージもないまま未知の暗闇を知りながら虚栄を見せるでもなく「やってみたらいいよ」と言える母は、実は自分が思っていたよりもずっとすごい気がしたし、自分はそういったテクノロジーの恩恵を受けておきながら臆病になっていてはいけないなと思った。

だから妹も、きっと自分の知らない強さを持っているのだろうし、これまで以上に話をしたいなと思った。