『春待ちの姫君たち』

 

春待ちの姫君たち (創元推理文庫)

春待ちの姫君たち (創元推理文庫)

 

 クラスの中心人物からいじめられている主人公の周りの人間模様の話。核心に触れないとこれくらいか。

 

主人公の赤音と親友の春来、いじめのきっかけを作った舞、赤音を支える彩、高校から赤音と親しくなった琴乃。

 

主要な人物はこれくらいで、みな浅からぬ関係にあることが少しずつ明かされていく。

 

中学時代に文化祭で上演した劇のシナリオが随所に意味ありげに挿入されるが、実際、人物模様を映している。

しかし登場人物の発言にミスリードされて最初は誤解する。

 

読み返すと序盤から丁寧に種は提示されている。

 

なんとなくおかしいなと思ったのは彼女が最初に登場したタイミングだった。

プロローグの「名前を呼ばせてあげる」のシーンから時間が飛んだのでうまく読めていないが故の違和感なのかと思ったがそうではなかった。

 

終盤、カーテンコールにかけての流れは怒涛でハラハラした。

存在感に欠けていた春来が文字通り舞台にあがる。

 

クライマックスは舞台に上がる人と下りる人が現れる。即ち別れを孕んでいるのだけど、その別れの物悲しさは単に離別一般によらず、物語の開始から積み上げてきたものが昇華されることによる。

 

『星を撃ち落とす』もこの作品も、狭いコミュニティにおける、蠱毒にも似た人間関係の蒸留が生む熱がややファンタジックにも思える仕掛けに説得力を与えている。

 

では人間関係の蒸留をどう描くかというと、ミステリのテイストである人を見る視点を複数持ち込み、方程式の変数をひとつずつ消していく。

あるいは変数を増やし方程式を作ることで内面の深遠さを発見する。

 

章ごとの展開を端的に言葉にしてしまえば、途端に陳腐さを感じてしまう。それは物語を読むことでコミュニティに半ば入り込むことで、ローカルなしきたり・価値観を分けあっていたからだろうと思う。

 

遠くの人たちの関わり合いに混ぜてもらえたという希有な体験が『星を撃ち落とす』にも感じた秘密の共有的な背徳感がある。