『死神の精度』

死神の精度 (文春文庫)

死神の精度 (文春文庫)

あまり本を読むことに慣れていなくて、それでも時間を持て余したときに読む本があれば、と思うときはいくらかあった。

たまたま同僚の方と好きな本、というより好きな物語の種類について話す機会があって、いくつか自分の考える物語に対する好みを告げて、それで思い切って「そんなかんじでお勧めの本はありますか」と尋ねてみた。

ちなみに好みというのは:

  • 短い話が連なっている (短編集)
  • それらが緩やかな繋がりを持っている

というようなもので、大体そのように告げたように思う。

それで同僚の方に伊坂幸太郎の『死神の精度』を勧められた。そういえば妹が伊坂幸太郎や重松清などを読んでいた。妹は知らぬ間にそんな風に読書をするようになっていた。あるいは自分が不自然に読書をしないだけなのか。

しばらく書店をまわって探してみたが、これが意外に見つけることが難しく、市内で近場の書店をあらかた見て回っても見つけることはとうとうできなかった。

しかたなしに Amazon で注文するか、しかし文庫本ひとつを買って送られるのもな、と思って見ると Kindle Store で取り扱っていた。

その時はちょうど Nexus 10 を買ったあとで『入門 Chef Solo』を Kindle for Android で読んだこともあったので、半ば勢い付いたかたちで購入した。

購入してからしばらく手つかずの状態だったが、先週末あたりから読みはじめてつうういさっき読み終えた。


滅多に尋ねられる機会はないので答えることも少ないが、咄嗟に「好きな作家」や「好きな作品」を尋ねられて脳裏に浮かぶのはだいたい決まっている。

恐らく、乙一か西尾維新と答えるだろうと思う。自分が意識して読んだことのある作家はそれくらいだからだ。


物語は6つの短編から成っていて、それぞれテーマや赴きも異なっていた。

おもしろさにムラがあるように感じた。『死神の精度』と『吹雪に死神』はあまりおもしろくなかった。単調というか先が見え透いているというか底が浅いというか。

『精度』はクレーマーの正体はすぐにわかったし、いきなり「見送り」にするのは、なんというか芸が無いなあ、と思ってしまう。

『吹雪』は脇の甘いミステリ風なかんじがして、どこに重心を置いて読んだらいいのかわからなくて疲れる。

『死神と藤田』と『旅路を死神』はおもしろかった。おもしろかったというか好きな話だった。

『死神と藤田』はオチが少し救いがあるというか、死期が定められたからこそ生まれる救いみたいなのが発生して、なんとも皮肉だなあ、と思って感心した。任侠ものの話は特別好みではないけれど、展開がドラマチックだった。

『旅路を死神』は小説らしいおもしろさを感じた。旅情とか、細やかな時間や心の変化がくどくなく表れているように思う。映像ではなかなかおもしろく見せられない類の話だと思う。

話の内容もほどよいあざとさというか、テーマの示し方が露骨でなくてよかった。主人公ともう一人の噛み合わなさみたいなのがおもしろい。あと実際の地名も出てきて、Kindle で読み進めつつ、Nexus 10 のマップでちらちらどこらへんの話なのか、とか眺めたりもした。少しだけ未来っぽい。

『死神対老女』は、改めて内容を思い返すと少しあざといようなところもあるような気がするが、それでも最後に置かれる物語としてこれ以上のものはないと思う。


伊坂幸太郎という作家を好きになるほど強い印象は持たなかった。

ただ、この類の話は好きなので、こういうかんじのをまた探そうと思う。